ホーム > 関連施設?センター > 研究力向上支援センター > 若きトップサイエンティストの挑戦 > vol5 山室和彦先生(精神医学 助教)
ここから本文です。
昨年10月、山室先生の論文「A prefrontal-paraventricular thalamus circuit requires juvenile social experience to regulate adult sociability in mice」が【Nature Neuroscience(Impact Factor:24.884)】に掲載されました。論文の概要をご紹介頂くと同時に、今後の抱負などインタビューさせて頂きました。
?Nature Neuroscienceに掲載された論文について、概要をご紹介頂けますでしょうか。
→私が所属する精神医学講座では幼若期逆境体験が成体の前頭前野にどのような影響を与えるのかに注目し研究を行っています。そのモデルマウスである幼若期隔離マウスモデル(生後21日から35日までの2週間のみ隔離をする)を用いて長年研究しさまざまな報告を行ってきました。私自身も大学院生時から、同マウスモデルを用いて研究を進めています。大学院生時代には、ホールセルパッチクランプ法を用いて幼若期隔離マウス前頭前野の皮質下に投射をする錐体細胞に機能障害をもたらすこと、また、隔離時期を遅らせたマウス(生後35日から2週間隔離)では、この機能障害が起こらず、前頭前野機能の発達には臨界期があることを明らかにしました。しかし、皮質下のなかでもどの領域に影響を与えているのかまでは分かっていませんでした。
今回の論文では、私たちはマウスが自由に動き回れる環境下で、ファイバーフォトメトリーを用いて前頭前野第V/VI層から視床室傍核に投射をする神経細胞の活動を観察しました。その結果、幼若期隔離マウスでは新規マウスへの反応が低いことが分かりました。実際に、光遺伝学という特定の神経細胞を光照射により活動を制御させる技術を用いて前頭前野-視床室傍核回路の活動を抑制すると社会性行動を減少させることも分かりました。次に、光遺伝学による前頭前野から視床室傍核への応答は幼若期隔離マウスにおいて低下しており、誘発されたシナプス伝達の持続的な減少も示唆されます。最後に、前頭前野-視床室傍核回路を光遺伝学を用いて活性化したところ、幼若期隔離マウスでみられた社会性の低下が回復することが明らかになりました。
(山室先生)
②本研究を進めるにあたって、最も苦労された点、またそれを乗り越えて来られた点を教えて頂けますか。
→本学では、大学院時代に第二生理学の山下教授の元で、細胞電気生理学的アプローチであるホールセルパッチクランプ法を習得していましたが、留学先のマウントサイナイ医科大学(米国)で、オプトジェネティクス法など薬理?光遺伝学的アプローチなど新たな手法を習得し、今回の成果へ繋がっています。留学先では、英語での研究環境や新たな人間関係の中で、当初なかなか成果が出ず、出口の見えない悶々とした日々を過ごしました。脳のどこの部位が影響を受けているのか、網羅的に一つ一つ調べる地道な作業が約半年続きました。その間、名古屋市立大学神経内科に所属する日本からの留学生には、メンタル面で随分助けてもらいました。(笑)視床室傍核であることが判明した時は、嬉しかったです。その後の研究は比較的順調に進めることができたと思います。
③今回の研究がジャーナルに掲載されることになったポイントをどのように分析しておられるでしょうか。
→視床室傍核には知覚処理、社会性を司るオキシトシン受容体を発現する神経細胞群が密集しているため、研究対象として注目されているところです。私の研究では、オキシトシン受容体に直接注目した訳ではないのですが、前頭前野―視床回路を調べる中で視床室傍核が大きな役割を果たしていることが明確になりました。また今、コロナ禍でSocial Isolationが社会に及ぼす影響が大きな問題となっており、論文が掲載されたNature-Neuroscienceでもこのテーマが表紙に取り上げられています。本研究の成果がいずれ治療に繋がれば、この問題を解決する一助になると思います。タイミングも幸運だったのかもしれません。
④先生が精神医学の分野を専攻されたのは、どういう経緯だったのでしょうか。
→本学の精神医学講座は、日本でも他学にはない研究をしています。国内大学では臨床研究が主で、マウスを使った基礎研究を行っているところは殆どありません。精神医療の将来として臨床症状のみから診断するのではなく、生物学的な研究も併行して行い、科学的な根拠を積み上げることが必要だと思いました。それが根本的な治療法につながると感じています。また、そういう研究が進められる本学の精神医学講座に魅力を感じました。
⑤臨床と研究の両立は、いろいろと困難があるかと思いますが、何か工夫をされていることがありましたら教えてください。
→昨年まで講座の教授をされていた岸本先生は、指導医としての持ち回りを集中的に配分することで、研究出来る時間を確保するようにご配慮頂きました。オンとオフの切り替えが出来、研究に集中できる時間を確保できたことは今でも感謝しています。
(インタビューの様子)
⑥留学中に研究以外で、ご自身の経験としてプラスになったと感じることはありますか。
→留学中は、異分野の方々と知り合えたことが大きかったですね。医学の世界だけではなく、銀行や企業など様々な領域で国際的に活躍する方々から刺激を受けました。このコミュニティの形成には、妻が大きく貢献してくれました。(笑)
⑦今後の研究目標についてお伺いします。可能な範囲でご紹介をいただけますでしょうか。
→マウスでの結果からヒトの治療へとつなげていくために、まず、今回注目した視床室傍核のオキシトシン受容体の詳細の解明と知覚情報処理と社会行動との関係を明らかにしていきたいと考えています(科研研究費助成事業に採択)。今回の手法をそのままヒトに応用することはできませんが、オキシトシンの効果を解明していくことで薬での治療へ向けた展開を目指していきたいと思います。
それと並行して、この8月にrTMS(経頭蓋磁気刺激法)による前頭前野機能への影響と自閉症状への効果に関する研究開発のテーマでAMED(令和3年度「脳とこころの研究推進プログラム」)公募に採択されました。本邦では精神疾患のなかでうつ病に対して承認されているrTMSですが、これを自閉スペクトラム症でみられる症状への応用を目指したものです。まずは、ホールセルパッチクランプ法を用いてrTMSによる前頭前野マイクロサーキットへの影響を数理モデル学者とタッグを組み詳細に調べること、さらに自閉スペクトラム症でみられる症状に対する効果について研究を行うことを考えています。
⑧最後に、本研究を進めるにあたって様々なご協力があったかと思いますが、特に感謝したい方々があればご紹介ください。
→ご指導いただきましたマウントサイナイ医科大学の森下博文先生、本学精神医学講座前教授の岸本先生、本研究の示唆をいただいた牧之段先生をはじめ、研究にご協力いただいた先生方に感謝申し上げます。また、いつも支えてくれている妻と家族に感謝いたします。
以上
(インタビュー後記)
コロナ禍で一層浮き彫りになった大きな社会問題である社会的孤立が、脳内に直接ダメージを与えているというお話は衝撃的でした。社会問題としての解決が急がれると同時に、科学的治療法の研究開発に期待したいです。マウスから人間への応用にはまだいくつものハードルがありますとお話されておりましたが、山室先生の今後の研究に注目です。
インタビュアー : 研究力向上支援センター 特命教授?URA 木村千恵子
URA 垣脇成光
【Nature Neuroscience】:Nature Publishingが発行する脳神経科学の分野で世界的に有名な米科学誌(外部サイトへリンク)
【山室先生の論文】:【Nature Neuroscience】 VOL 23/October 2020/1240–1252(外部サイトへリンク)
PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要です。Adobe Acrobat Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。
お問い合わせ
公立大学法人澳门金沙官网_金沙国际赌场-app*网投 研究力向上支援センター
〒634-8521 澳门金沙官网_金沙国际赌场-app*网投
電話番号:0744-22-3051
ファックス番号:0744-29-8021